スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「深雪がバリバリ書けるなら結果オーライだけど、パトロンに立候補した身として少しは脚本家業の役に立ちたいじゃないか」
 一見わがまま御曹司のようでいて、こんな台詞もさらりと伝えてくるからこの男は面白い。
「貴博さんにできること……貴博さんにしかできないことがあるじゃない」
「何?」
 私はコーヒーカップをテーブルに戻し、椅子ごと寄せて彼との距離を詰めてみた。
「私の癒し。目の保養」
 間近でこの顔を拝めるのは妻の特権である。
「結局顔だけってか」
「そんなことは……あ、でも脚本家として稼げるようになったらパトロンは要らなくなるでしょう? 私が夢を叶える前に、目一杯惚れさせといた方がいいんじゃない?」
 とうに惚れ込んでいるけれど。ちょっと意地悪して告げると、同じように悪意のこもった目と目が合った。
「分かった」
「え?」
 唐突に私の肩に手を回して抱き寄せるから、彼に身を預ける格好となる。
「じゃあ今は、俺で癒されて?」
 耳元でささやく声は破壊力抜群だった。身体がぞくりと反応しそうになって、慌てて突き放す。
「ちょっと!」
 このままでは執筆どころではなくなってしまう。
「まだ仕事中だから。コーヒーブレイクだけだから!」
 彼の隣を抜け出してパソコンの前に戻ると、イチャイチャしそこねた貴博さんがついてきた。背後から私の首に腕を回し、またしても耳元に顔を寄せる。
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