スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 ぶつぶつ何か呟いているが、もうそれどころではなかった。パソコン画面の中では主人公が結末を待っている。
 さて――。
「貴博さん、やっぱりこの映画出演しない? ラストでヒロインに新たな恋の予感だけ示唆するイケメンとか、どう?」
「……俺、あんたの夫なんだけど」
「だったね」
 間近でこの顔を拝める特権を、手放してしまうのはあまりにもったいない。
「やっぱりやめとくか」
 画面に向かったまま呟くと、耳慣れた溜め息が聞こえてきた。振り返らずとも彼の呆れたような、でもどこかまんざらでもなさそうな表情が目に浮かぶ。
 今宵、貴博さんとイチャイチャできるかは私のタイピング速度に掛かっている。キーボードを壊すわけにはいかないが、そう簡単に壊れないことも分かっている。
「よし!」
 カタカタと指先が奏でる音と共に、脚本家と御曹司の夜は更けていった。
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