スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「俺のせいで妥協されたくないんだよ。自分が素人なのも、深雪が舞台に本気なのも、分かってるんだから」
 驚いて貴博さんを見上げていると、勇也さんに小突かれた。その目が「ほら」と訴えている。
「じゃあ、その……きちんと説明したいから、後でちょっと時間もらえるかな?」
「うん?」
 だって奈央子の視線がもう痛い。彼女が見ている前で話すような内容では――なんて考えていると、
「貴博さんって、深雪さんのこと好きなんですか?」
 一番面倒くさいことを大声で聞かれてしまった。舞台の上でむくれている奈央子を見て、ほとんど反射で答えてしまう。
「そんなわけないでしょ!」
 すると今度は、貴博さんが眉をひそめていた。
「……それ、何で深雪が勝手に決めつけるわけ?」
「だって」
 どうせ何もないのに嫉妬されたら堪らない。と、彼女の前で明かせないので黙り込む。
 彼は深いため息をつくと奈央子の方へ振り返った。初めて私と遭遇した時のようにつかつかと歩み寄り、冷たい瞳で見下ろす。
「この際言っておくけど」
 ハッとした。
 待って。待って、待って! お願いだから今だけはやめて!
「俺、あんたのこと好きになる余地はないからな」
「……え?」
 容赦なく切られた彼女の顔が、みるみる青ざめていく。
「舞台の上で何されても割り切ろうって思えるけど、調子に乗って稽古が終わった後までベタベタされても困る」
「貴博さん!」
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