スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
『もちろん奈央子もいい役者だけどさ、今回ばかりは脚本家の我が強すぎる。ユメにぴったりのキャストって、深雪を置いて他にいない気がするんだよね』
「そんなこと、急に言われても」
『前から考えてはいたよ。奈央子がやる気を取り戻す可能性も見てたけど、難しそうだからそろそろ提案しようと思ったわけ』
 提案するだけして、彼はすぐさま話題を移した。
『貴博くんの方は?』
「……あれも、音沙汰なしです。奈央子のことで責任を感じている気配は、全然なかったんですけどね」
『だね。あの時の深雪の説教だって、別に堪えているようには見えなかったし』
 実は奈央子がいなくなった二日後あたりから、貴博さんも稽古場に来なくなってしまった。最初だけ「しばらく休む」と連絡があったけれど、それ以降は電話もつながらないし、しばらくがどれほどかも分からない。
『まあ、貴博くんは連絡つかないとどうしようもないもんな。自宅も職場も行きつけの店も、何にも知らないんだから』
 知っていたら捕まえにいくのか。さすが勇也さんだ。電話越しにも関わらず、私は背筋を伸ばして頭を下げていた。
「すいません。いろいろあって連絡先を尋ねるのが精一杯でした」
『いや、俺は大丈夫だけど。そんな及び腰で、どうやってあのイケメン口説いたの?』
 それを聞かれると笑って誤魔化すしかできない。
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