スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
4 日常は戻らない
怒涛の公演期間を終えると、いつだって日常が待っている。
三日分の有給休暇の間に溜まった仕事を片付けるため、今日の私はいつも以上にテンポよく伝票をさばいていく予定だった。
しかし――。
自席に着くなり部長から声を掛けられた。部屋の奥から決して少なくない机の合間を縫って、わざわざ耳元でこそりと彼が告げたことには、どうやら私は相当偉い人から呼び出しを食らったらしい。
「越智さん、いったい何したの?」
上司の真顔が途轍もなく怖いが、良くも悪くも職場では何もしていないのがこの私、越智深雪という社員のはずだ。
更に恐ろしいことに、呼び出された先は一般社員が勝手に立ち入ることのできない最上階の役員フロアだった。そのためいかにも「秘書やってます」という雰囲気の、無地のスーツを着て坊ちゃんカットに眼鏡を掛けたお兄さんが案内役として待ち構えていた。
「……あの、私は何をしたんでしょうか?」
彼が答えてくれないので、黙って後をついていくことしかできない。
促されるままエレベーターに乗って、最上階で降りて廊下を歩いていると、いくつか並んでいた扉の一つをお兄さんがノックした。
「ここって」
部屋の中から返事があって、ドアが開いてもすぐには足を踏み出せなかった。
何故って、応接用の黒いソファの横に立っていたこの部屋の主は、ササメの社長である篠目貴一その人だったのだ。
三日分の有給休暇の間に溜まった仕事を片付けるため、今日の私はいつも以上にテンポよく伝票をさばいていく予定だった。
しかし――。
自席に着くなり部長から声を掛けられた。部屋の奥から決して少なくない机の合間を縫って、わざわざ耳元でこそりと彼が告げたことには、どうやら私は相当偉い人から呼び出しを食らったらしい。
「越智さん、いったい何したの?」
上司の真顔が途轍もなく怖いが、良くも悪くも職場では何もしていないのがこの私、越智深雪という社員のはずだ。
更に恐ろしいことに、呼び出された先は一般社員が勝手に立ち入ることのできない最上階の役員フロアだった。そのためいかにも「秘書やってます」という雰囲気の、無地のスーツを着て坊ちゃんカットに眼鏡を掛けたお兄さんが案内役として待ち構えていた。
「……あの、私は何をしたんでしょうか?」
彼が答えてくれないので、黙って後をついていくことしかできない。
促されるままエレベーターに乗って、最上階で降りて廊下を歩いていると、いくつか並んでいた扉の一つをお兄さんがノックした。
「ここって」
部屋の中から返事があって、ドアが開いてもすぐには足を踏み出せなかった。
何故って、応接用の黒いソファの横に立っていたこの部屋の主は、ササメの社長である篠目貴一その人だったのだ。