スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
   *

 久方ぶりに顔を合わせた奈央子は、すっかりいつもの奈央子だった。
「深雪さん、会いたかったですう!」
 公演も終わり、私の仕事が唯一忙しい年度代わりを乗り越えた頃合いで、可愛い後輩から女子会のお誘いを受けた。お店選びを任せたら、アフタヌーンティーを出しているこじゃれたカフェまで案内される。
 稽古着を脱いだ途端に春らしいパステルイエローのワンピースを身に着ける美女を前にして、いまだ動きやすさ重視のチノパンとカットソーを着ている自分との差を感じてしまう。
 しかし今日は、ただただ紅茶とケーキにキャッキャする女子会ではない。
「その節は本当にすみませんでした」
 白い丸テーブルの向かいに座った途端、奈央子は深々と頭を下げた。どの節なのかは聞くまでもないだろう。
「大丈夫よ。公演も無事に終わったことだしね」
 彼女が謝罪のために私に連絡してきたことは一目瞭然だった。この潔さこそ赤塚奈央子がウチの看板女優たる所以である。
「それに舞台を降りた後も、こっそり仕事はしてくれてたでしょう。勇也さんが私の衣装選べるわけないもん」
「バレてましたか」
 代役に入った私のことは明らかに避けていた彼女だが、勇也さんとは普通に会っていたらしい。これだから舞台監督には頭が上がらない。
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