スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「でも主演の交代に一番乗り気だったのって、実のところ勇也さんですからね」
「そうなの?」
 確かに、最初に私をユメ役に推したのは先輩だったけど。
「本人は逃げた私のフォローに入っているつもりだったんでしょうけど、意外と楽しそうなんですよね。そんなに深雪さんが良かったのかって、役者としてちょっぴり妬けましたよ」
「まあ、いい舞台を作るためなら何でもする人だから」
 自分と比べるからしっかりして見えるだけで、思い付きで暴走する本質はあまり変わらないのかもしれない。
「女子と二人で買い出しという名のショッピングもできちゃう人ですもんね。場慣れしすぎて、あれがデートだったらちょっと嫌かもです」
 衣装班の裏話を聞きながら、三段重ねのティースタンドに挑んでいく。
 上段を彩る季節限定の桜スイーツを眺めつつ、まずは定石通り下段のサンドイッチを味わってから、ふと湧いた疑問を投げてみた。
「そういえば奈央子って、勇也さんにはうっかり惚れたことないよね」
「はい?」
「キャストとしてもスタッフとしても、あんなに絡んでるのに」
「……人のこと、誰彼構わず惚れる女みたいに言わないでくれます?」
 誰彼構わないレベルに惚れっぽい美女が真顔で返す。
「だって勇也さん、私のこと眼中にないですもん」
「え? それだったら貴博さんだって――」
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