スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 慌てて言葉を引っ込める。少々ストレートが過ぎた。
「ごめん」
「別に平気ですよ」
 実際、奈央子は顔色一つ変えていない。黙々と口に入れたスコーンを紅茶で流し込んでから、おもむろに話し始める。
「貴博さんは何を考えているか分からないからこそ、ワンチャンあるかと思っちゃったんです。でも勇也さんは、誰に惚れてるのか分かりやすいから」
「そうなの?」
 ひょっとして彼女とかいたのだろうか。全然知らなかった。
「……深雪さんって、演劇に全振りしてるせいでたまに現実が見えてないですよね」
「うん?」
 また紅茶を一口含んで、奈央子がまじまじとこちらを見つめてくる。
「いやいや、演劇フリークはお互い様でしょう」
「そういうことじゃなくて、そもそも私は演劇フリークでもないですよ。深雪さんと違って、いつか足を洗うつもりです」
 唐突な告白をかましてから、彼女はニッと笑って見せた。
「私の場合、ちゃんと一生ものの恋をしたら、演劇なんかやってる場合じゃなくなる気がします」
 なるほど。奈央子ならあり得る話だ。
「……ちなみに、貴博さんは?」
「え?」
 一瞬の間が空いた後、彼女はけらけらと笑い出す。
「ないですよ。舞台を降りたらあんな顔だけ男のどこがいいのか分からなくなりました」
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