スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 ウチの看板女優の変わり身の早さもさすがだが、それを一言一句違わず予知した勇也さんも冴えている。
「別に顔だけ男ってわけでもないんだけどね」
「そうですか?」
「奈央子と稽古してた時だって、結構お芝居は頑張ってたでしょう」
「恋愛に演劇のスペックは要らないんですよ」
 言われてみればそうか。と、頷く間も彼女は止まらない。
「口を開けば偉そうなことばかりだったし、どう見ても自分勝手な男でしょう」
「そこは否めないけど」
 役者には我の強さも必要だからな。と、思ってしまう私は早くも感覚がずれている。
 彼の人となりよりも、ケーキとムースとマカロンはどれから食べるべきかということの方が、今現在は悩ましいくらいだ。
「仕事だって何やってるか分かったもんじゃないし」
「あー」
 笑ってお茶を濁したら、目敏く奈央子が食いついた。
「もしかして深雪さん、知ってます?」
「え?」
「貴博さんの仕事というか、素性」
「うーん」
 ずいと身を乗り出した彼女は、答えるまで引き下がりそうもない。
 別にいいか。本人も隠す気なさそうだったし。
「実は稽古期間中に一度だけ職場でばったり会っていて」
「ササメの関係者ってことですか。なるほど、深雪さんと活動範囲がある程度重なってないと、スカウトだってできませんものね」
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