スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 パクパクとケーキを口に運びながら、奈央子が筋の通った推理を披露する。が、問題はそこではない。
「それでね、ホントについ最近知ったことなんだけど……あの男のフルネーム、篠目貴博だった」
「はい?」
「つまりはササメのいわゆる御曹司で、肩書としては副社長」
 彼女はキョトンとして瞬きを繰り返した後、女優らしいきれいなオーバーリアクションを見せた。
「え!?」
 分かる、分かるよ。その気持ち。
「そんな出来過ぎた展開、あります?」
「正直、まだ半信半疑なんだけど」
「あるわけですね」
 意外とすんなり頷かれた。
「そっかあ。今からでも玉の輿を狙えませんかね?」
「何言ってるの?」
「妄想する分には自由でしょう。深雪さんだって、そういうところから脚本を書いているんじゃないですか?」
「……確かに?」
 とはいえ、そんなふうにうそぶける彼女が羨ましい。
「深雪さんは玉の輿、どう思います?」
「さあ?」
「真面目に聞いているんですけど」
「妄想だったんじゃないの?」
「私にとっては妄想ですけど」
 キラキラした瞳がこちらをじっと見据えた。
「わざわざ私に話したってことは、最新情報があるんじゃないですか? もったいぶらないで教えてください」
 今日の奈央子はなかなか鋭い。この勘の良さを初めから発揮できていれば、器量もよくてとっさの対応力も高いこの子は、普通に貴博さんに見初められていたんじゃないだろうか。
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