スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
 これまでの立ち居振る舞いからも薄々感じていたけれど、貴博さんは恋愛には不向きな人間なのだろう。吊り橋効果で簡単に恋に落ちてしまう奈央子とは、役者としてだけでなく男女としても相性が悪かったと言わざるを得ない。
「結婚も相手と一緒になるメリットデメリットを検討すればいいと考えたら、ちょっとはとっつきやすいかなと」
 これまた恋愛至上主義の奈央子からしたらとんでもない発言だろうが、もともとお見合いにはそういう側面があって「政略結婚」なんて言葉も残っている。
「で、俺は結婚するなら深雪がいいと思った」
「……え?」
「そんなに驚くか。既に結論は伝えていたつもりなんだけど」
 訝しげに彼が小首を傾げるが、そこに至る思考回路に全く以てついていけない。
「どうして私なの?」
「今まで出会った中で、深雪は断トツで面白い女だと思う。俺のこと顔だけで舞台にスカウトするし」
「ヤバい女の間違いじゃなくて?」
「それも本気で舞台に向き合っているからこそだろう。がむしゃらに演劇やってる姿は格好いいというか、惚れ惚れするというか」
 真剣に言葉を選んでいた貴博さんが、照れたような笑みを浮かべた。
「だから俺、あんたのこと好きなんだと思う」
 きっと本心なのだろう。すごく嬉しいし、ありがたいことだと思うけれど――。
「それは人として、脚本家としてって感じだよね。女としてというよりは」
「ダメなのか?」
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