スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
*
ほぼ間違いなく、貴博さんにそのつもりはなかった。
初めから下心があったなら、ホテルのバーに呼び出した時点で部屋くらい押さえてあるはずだ。しかし彼は本当にゆっくり話ができる場所を指定しただけのようで、私たちは一度フロントに戻ることになる。
淡々とスタッフとやり取りしている彼の傍らで、「急遽お泊りが決まりました」感を全面に出してもじもじしているこの時間がじれったい。
いや、じれったいというか……ちょっと焦っているのかもしれない。
これから結婚するかもしれない男がプレイボーイなのも困りものだが、あまりに淡白なのも心もとない。自分一人で舞い上がっているのではないかと次第に不安が頭をもたげていき、エレベーターで二人きりになった瞬間、思わず彼の腕を掴んでいた。
「深雪?」
貴博さんが真顔でこちらを見下ろす。
「酔ってる? だから飲みすぎるなって言ったろ」
違う、そうじゃない。確かに酔ってはいるけれど。
「……雰囲気作りも大事かなと。根が脚本家なもので」
「何それ?」
お酒の力で甘えたら、良識ある男からまたの機会にしようと提案されてしまいそうで、つい気丈に振る舞ってしまった。役者として登場人物の心情を的確に読み解いていた貴博さんが、私の気持ちはまるで汲まずに鼻で笑っていた。
「気遣いは無用だ」
だから違うって!
ほぼ間違いなく、貴博さんにそのつもりはなかった。
初めから下心があったなら、ホテルのバーに呼び出した時点で部屋くらい押さえてあるはずだ。しかし彼は本当にゆっくり話ができる場所を指定しただけのようで、私たちは一度フロントに戻ることになる。
淡々とスタッフとやり取りしている彼の傍らで、「急遽お泊りが決まりました」感を全面に出してもじもじしているこの時間がじれったい。
いや、じれったいというか……ちょっと焦っているのかもしれない。
これから結婚するかもしれない男がプレイボーイなのも困りものだが、あまりに淡白なのも心もとない。自分一人で舞い上がっているのではないかと次第に不安が頭をもたげていき、エレベーターで二人きりになった瞬間、思わず彼の腕を掴んでいた。
「深雪?」
貴博さんが真顔でこちらを見下ろす。
「酔ってる? だから飲みすぎるなって言ったろ」
違う、そうじゃない。確かに酔ってはいるけれど。
「……雰囲気作りも大事かなと。根が脚本家なもので」
「何それ?」
お酒の力で甘えたら、良識ある男からまたの機会にしようと提案されてしまいそうで、つい気丈に振る舞ってしまった。役者として登場人物の心情を的確に読み解いていた貴博さんが、私の気持ちはまるで汲まずに鼻で笑っていた。
「気遣いは無用だ」
だから違うって!