スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「貴博さんの言葉に納得したからです」
「納得?」
 端的にいえばそういうことになるが、響きが良くない。もっと適切な台詞を探さなければ。
「初めはどうして彼が私なんかにプロポーズしたのか、ホントにもう訳が分からなくて。でも改めて貴博さんと話し合って、彼の率直な気持ちが伝わってきたので、結婚してもいいのかなと」
「してもいい?」
 今度は文乃さんが目を細めた。ああ、やっぱり私にアドリブは向いていない。
「いえ、あの……決して上からものを言っているわけではなくて、私なんかが彼と結婚しても許されるのかなという意味合いで」
「どうして許されると思ったのかしら? 自分に不釣り合いだと分かっているなら、貴博のためにも身を引くところでしょう」
「意味分かんねえ」
 貴博さんが吐き捨てるように呟いたが、意味は分かる。文乃さんは断定的な口ぶりで語り出した。
「この子は欲しいと思ったものは、とことん欲しがる子です。ただのワガママで終わらせず、手に入れるための努力を惜しまない子です。私がそう育てました。自分の意思を強く持てと」
 彼女の言う通りだと思った。
 確かに貴博さんは我の強い御曹司だが、筋は通してくる。舞台に立つために脚本を読み込み、演技を模索してくれた。プロポーズにも言葉を尽くしてくれた。自分が悪いと思ったら潔く謝るし、理不尽なことは決して口にしない。
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