スカウトしたはずのイケメン御曹司からプロポーズされました
「そのせいで時折、的外れなものにまで執着することがあるのです。この子の人生には不要なもの、取るに足らないものにまで」
 つまり私は彼の人生には必要のない、取るに足らないものということか。
「貴博はどこの馬の骨とも知れない女に、現を抜かしている暇はないのです」
 結局言われてしまったではないか、馬の骨。
 私が呆然とする横で、貴博さんはきっぱりと主張した。
「深雪はササメの社員だ。これ以上の身元の保証はないだろう」
 そして父親へ視線を向けると、社長たる貴一さんは「そうだねえ」と曖昧に頷いた。
「越智さんの直属の上司による評価は、まめまめしく働く真面目な一社員、それ以上でもそれ以下でもない。と、聞いている」
 実に公平なジャッジだ。さすが一流企業、お菓子業界のドン。私にはもったいない職場である。
「君は仕事を頑張りたい人ではなさそうだね」
 図星を指されて私は恐縮するばかりだが、貴博さんはどこ吹く風だった。
「別にいいだろ。俺と結婚するんだから、仕事は辞めたって構わないし」
「貴博さん、その言い方はちょっと」
 まだ辞めるとは決めていない。が、問題はそこではないだろう。
 結婚にまるで興味がなかったはずの息子の方針転換によって、文乃さんの表情は悲壮感に溢れていた。
「あなた、貴博に何を吹き込んだの!?」
「べ、別に私は……」
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