狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
5 信じてもらえない辛さ
さぎりは、職を求めて、今日も今日とて、帝都に繰り出す。
お供に連れているのは、懐いている子狐である。
この子狐、宿に置いていこうかと思ったのだけれど、さぎりにぴったりくっついて離れないのだ。
外に出るときも、その体が小さいのを良いことに、さぎりの首周りに襟巻のように巻き付いており、きょろきょろと周りを見ながらも、離れる様子がない。
「子狐ちゃん、そんなにくっつかなくても大丈夫よ?」
「きゅん……」
「くっついてたいの?」
「きゅーん!」
「なら、仕方ないわね」
嬉しそうに尻尾を揺らす子狐に、さぎりは微笑む。
そうして道を歩いているところで、さぎりはふと、大通りから少し逸れた小道に、きらりと光る物が落ちていることに気が付いた。
駆け寄ってみると、それは美しい懐中時計であった。
銀色のそれには、繊細で美しい細工が施されており、その値の高さは、時計に詳しくないさぎりにも感じ取れる。
きょろきょろと辺りを見回すと、小道の先の角を、官憲の姿をした者が曲がるところが見て取れた。
「……もし! お待ちくださいませ」
さぎりは必死に走り寄り、小道の先の角を曲がる。
すると、立ち止まっていたらしい男にぶつかってしまい、さぎりはしたたかに男の体に鼻をぶつけてしまった。
「痛……す、すみません」
「何用か」
冷たく怜悧な瞳で見られて、さぎりは思わず身を竦めてしまう。
そして、その髪の色が白銀であることに気が付き、さらに青ざめた。
この国で、白銀の髪といえば、六大公爵家の一つ、治癒の力を持つという龍美家の一族の者だ。
あまり、良い評判は聞かない、あの。