狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。


「萩恒家には、人手がない。それは皆の者も分かっておろう」

 しん、と静まり返る室内に、帝はただ、穏やかに声を紡ぐ。

「しかし、それだけでは、不満が溜まるのも然り。お役目は、その家の戦士の命を懸けてのもの。ただ漫然と免除を続けるのも、皆に良くないこととなろう」

 ぱちりと扇を閉じる音がした後、帝は一つ、息を吐く。

「此度の件、萩恒家に任せる」
「……陛下!」
「萩恒家の血が途絶えることは、なんとしても避けねばならぬ。それ故に、龍美(たつみ)家と与茂蔵《よもぐら》家を供につけよう。よもやその二家が共にあって、萩恒家の当主を失うようなことにはなるまい」

 暗に、萩恒家の当主が死んだ場合は、二家に責任を負わせると告げる帝に、二家の当主は、にやついていた顔を強張らせる。

「そして、萩恒家は、此度の遠征に出た後、五年はお役目を免除する」
「陛下、そのような!」
「その間に、萩恒家の当主は婚姻せよ。これ以上猶予を与えることは無い。まあしかし、そうよの……婚姻せずとも好い。子を成せ」

 サッと青ざめた崇史に、五家の当主達は、逆に不思議そうな顔をする。当主であるのだから、早々に婚姻すべきだ。何をそのように、躊躇うことがあるというのか。
 崇史は十八歳で当主となり、引継ぎを行い、支えるべき大人達の居ない中、必死に仕事に邁進してきた。それを理由に、婚姻を避け続けてきたのだ。しかし、あれから四年。確かに、帝の言うとおり、そろそろ頃合いである。
 そして、ただ二人しかいない萩恒家。五家の中から当主の妻を見繕えば、萩恒家に対する五家の均衡は崩れることとなる。だから、崇史は、侯爵以下の家柄の娘を自由に選ぶこととなるだろう。特に政略も絡まない、恵まれた状況だ。しかし崇史は、死刑の宣告でも受けたかのように、白い顔をしている。

「……承知致しました」

 これをもって、その日の会議は解散となった。

 崇史は、唇を噛んだまま、最後までその場に残っていた。



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