狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
結局、仲のいい二人の主人に推されて、私達は三人で希海の部屋へと向かい、希海を寝かしつけた後、崇史と二人で、住み込み侍女の私の部屋へと向かう。
部屋の前まで来たところで、さぎりがへらりと笑って、送り届けてくれた礼を言うと、崇史は深刻な顔で彼女の名を呼んだ。
「さぎり」
さぎりは、不味いと思った。
なぜなら、崇史が言おうとしたことが分かってしまったからだ。
「崇史様」
「何故避ける?」
「避けて、なんか」
「俺が嫌いだからか」
「そんなこと!」
「そう、良かった」
目を伏せ、哀しそうにする美丈夫に、さぎりは慌てて取りすがる。
すると、崇史は、悪戯が成功したときの希海のように、嬉しそうな顔で砂霧を見つめて、抱きしめた。
「た、崇史様。いけません」
「嫌なら、突き放せばいい」
「私はか弱い娘です」
「力は入れていない」
「か弱い侍女です。主人を突飛ばしたら、存在が吹き飛ぶ程度の」
「だけど、俺の好いた女性だ」
ゆるくさぎりを抱きしめてきていた腕が、ふわりと外れる。
離せと言っておきながら、不謹慎にも物足りないような気持ちになってしまい、さぎりが恐る恐る崇史と目を合わせると、そこには、乞うような緋色の輝きが揺れていた。
「好いた女子に突飛ばされたら、吹き飛ぶのは、俺の方だ……」
真摯な男性のような顔をしているが、この崇史という主人は、その言葉で、さぎりがどれほど動揺しているか、手に取るように分かっているのだ。顔を真っ赤にして、蜂蜜色の瞳を潤ませるさぎりの額に、崇はそっと唇で触れる。
「崇史様」
「さぎり。まだ決心はつかないか」
「まだ、と、いうより……」
「まだ、だ。早く堕ちてこい」
「なんてことを言うんです」
「婚姻を命じられた」