狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
カッと顔を赤らめたさぎりに、律次は嘲るような笑いを浮かべる。
「相手にもされていないだろうが……遊ばれていたとしても、この四年の、一時的なことだ。分かっているか」
「……はい」
「崇史には、他に妻を宛がう。私の懇意にしている御方の娘でも、私の娘でもよかろう。候補には苦労せん」
それは、分かっていた話だ。
そして、そのことを乗り越えてまでの何かを、さぎりは持っていない。
「だが、お前が傍にいては困るのだ」
「困る……?」
「崇史との間柄を疑われてもおかしくない年齢、崇史と希海に最も近く侍る、一人だけ残った未婚の侍女」
余りの言われように息を呑むと同時に、それは正鵠を射たものであったため、さぎりはただ青ざめる。
「そうでなくとも、醜い火傷痕だらけで、見目が悪く、そういった意味でも、主人の評価を下げる。お前のような者は、崇史と希海の近くにいるべきではない」
そうして、律次は最後に言い放ったのだ。
「火傷痕の見苦しい、醜女が」
こうして、さぎりは萩恒家を出た。
その、胸の内に燻る炎のような気持ちには、蓋をして。