狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。


 御影は、日中の多くの時間を、外で過ごしているようで、お茶の機会は多くはなかったけれども、それは楽しい時間だった。
 彼女の話は多岐にわたり、この四年で世情に疎くなってしまったさぎりは、水を得た魚のように、その知識を吸収していった。

「さぎりさんは本当に賢いのね」
「いいえ。でも、私が知らないことで、お嬢様に不利益になっては……」

 ハッとして、その後沈み込んでしまったさぎりに、御影は穏やかに問う。

「前に仕えていた、ご令嬢のことかしら?」

 さぎりが頷くと、子狐が慰めるように、さぎりの膝に乗ってくる。
 そのふわふわの黄金色の毛を撫でると、子狐は気持ちよさそうに「きゅん」と鳴いた。

「……お嬢様は、とても幼くて、(いとけな)くていらっしゃって」
「きゅん?」
「まだ七歳なのですが。すごくお可愛らしい方なんですよ。笑顔が素敵で」
「きゅん!」
「こう、ほっぺなんかも、ふくふくで柔らかくて。髪もサラサラで、手も小さくてもちもちしていて」
「きゅん……?」
「お小さくていらっしゃるご自分を認識できていらっしゃらないところが、また愛くるしくて」
「きゅん!!???」
「あらあら。子狐ちゃんは、忙しそうねえ」

 さぎりの話で百面相をしている子狐に、御影は穏やかに微笑んでいる。

「来月、お誕生日でいらっしゃるんです。何か、贈り物をしたいなと……」

 おずおずと見てくるさぎりに、御影は嬉しそうに微笑んだ。
 子狐は、ピンと尻尾を立てた後、ぶんぶんと尾を振って喜んでいる。

「じゃあ、とびきりのものを探さないといけませんね」
「ご助言いただいてもよろしいのですか?」
「もちろんですとも。そうねえ、今度二人で出かけましょうか。子狐ちゃんは、お留守番ね」
「きゅん!?」
「えっ? でも、別に」
「子狐ちゃんは、お留守番です」
「きゅん……」
「そ、そうですか」

 訳が分からないなりに頷くさぎりに、御影は微笑んでいる。
 子狐は、悔しそうにぷるぷる震えていたけれども、最終的には諦めて、さぎりの膝の上で寝たふりを始めた。


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