狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
「……お前!」
怒気も露わに自分を見てくる男に、さぎりは震えた。そして、男の美しい白銀の長髪に、三週間前の出来事が思い浮かんで、「あっ」と声を上げる。
目の前に居るのは、さぎりが懐中時計を拾って渡した男だった。
その灰色の瞳は、怒りを滾らせてこちらを見ている。
「お前、私に何をした!」
「えっ?」
「私に何かしただろう! いや、お前じゃないな。――そこの狐!」
そう言うと、男はさぎり達に近づいてきて、狐の首を握って、乱暴に宙に持ち上げた。
「きゅんっ!」
「やめて! 乱暴しないで!」
「お前だ! この、獣風情が! 高貴なる私に異能の力をかけた、畜生が!」
さぎりは男の腕に取りすがったけれども、腕はびくともしない。
そのまま息が止まってしまいそうな子狐にさぎりが青ざめていると、男は子狐をそのままさぎりに投げつけ、さぎりは子狐ごと床に叩きつけられてしまった。
「こ、子狐ちゃん!」
体は痛む。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。首を掴まれ、叩きつけられた子狐は無事なのか。