狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
「げほっ、けほけほ」
「さぎりー!」
「……希海、様!」
さぎりが小さく声を放つと、希海が泣きながら、よたよたと床を這いずるようにして近寄ってきた。
可愛い主人をしっかりと抱きしめると、希海はさぎりの胸の中でわんわん泣いている。そんな主人を、かすれた声で宥めていると、背後から地を這いずるような声がする。
「……この、女狐が!」
ハッと顔を上げると、そこには右腕に火傷を負った征雅が居た。
手には数珠のようなものを持っている。どうやら、異能の力を込められた具物に狐火を封じ、押さえたらしい。
ナイフを振り上げ、さぎり達に迫ってくる男に、さぎりは希海を庇うように抱きしめ、目を閉じる。
そして、征雅のナイフがさぎりに届こうとしたその瞬間。
轟音が鳴り響き、地響きと共に、部屋の壁が崩れ落ちた。
砂煙と共に、室内に大量の狐火が舞う。
さぎりが声を出す間もなく、征雅の周りに狐火の檻が現れた。
「な、なんだこれは!」
「……!」
崩れ落ちた壁からは、暗い空、月明かりと、炎を纏った大きな大きな狐が見えた。
柔らかく透けるような茶色の毛。
四階建ての龍美家本邸と同じくらい大きなその体。
緋色の瞳が、宝石のように煌めき、夜空を照らすように、狐火が揺れている。
その得も言われぬ光景に、さぎりはぽろりと涙を溢した。
「崇史、様……」
言葉を交わさずとも、人の姿でなくとも、さぎりには分かった。
さぎりの大切な、愛しい主人が、駆けつけてくれたのだ。