狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
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さぎりは、希海を抱きしめ、息が止まるような思いで、大狐の戦う様子を見ていた。
龍美家の者達は、四年前に見た白い香り袋を手に、大狐の元に集まっている。
あのとき、美月や戦士達を危機に陥らせ、今も希海を苦しめている、あの香り袋。
(崇史様……!)
血の気が引いた顔をしているさぎりの目の前で、大狐は咆哮する。
その緋色の瞳を見開かれた瞬間、狐火の熱風が巻き起こり、官憲達を薙いだ。
官憲達は、大狐の周りに居る者、さぎりのいた部屋の扉から入ってきていた者達、全てがその熱風で吹き飛ばされ、庭の樹木や外壁、部屋の壁に当たって気絶した。
後から追加で現れた者達も、破壊された本邸や気絶した官憲達を見て、恐ろしくて動けないでいる。
その後、大狐は静かに首を振り、周りを確認したかと思うと、視界に入る香り袋全てを狐火で燃やし尽くしてしまった。
白い香り袋はあっという間に燃え尽き、中から黒く光る石がころりと転げ落ちる。そしてその黒い石は、パキリと音を立てて割れた。
そうして、香り袋を全て燃やし尽くしたところで、大狐は――崇史は、その姿を人に戻した。
崩壊しかかった龍美家本邸の四階、さぎりの居る室内に現れた崇史に、香り袋の効果から解放された希海が喜色に満ちた声を上げる。
「たか兄ぃ!」
崇史はその声を聞くと、くしゃりと泣きそうな顔をして、さぎりと希海のところに駆け寄ってきた。
迷うことなく二人を抱きしめた彼に、希海もさぎりも、強く抱き返した。
「希海」
「遅いの! 遅いよ、たか兄ぃ! 早く帰ってきてって、言ったのに!」
「うん、済まない。本当に、遅くなった……」
「たか兄ぃのばかぁー!!」
崇史は、わーわー泣いている希海を抱きしめる腕に力を入れる。
そして、ただ、静かに涙をこぼしているさぎりに目を向けた。
「さぎり」