狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
騒つく廊下の声を背景に、扉から現れたのは、御影だった。
色の抜けた白い髪を綺麗にまとめ上げた、美しい老婦人。
その紫色の瞳は、はっきりと隆雅と崇史を見据えている。
御影が現れたときの、隆雅の慌てようは凄まじいものだった。
血の気の引いた顔で、床に崩れ落ちるように跪き、頭を垂れる。
「――先帝陛下! 何故、このようなところに!」
(……先帝、陛下?)
唖然とするさぎりの横で、崇史も膝をついた。
さぎりも慌てて膝をつき、希海は御影を見ながら、不思議そうな顔で首を傾げている。
「此度の件、私は全て知っております。証拠も証人も十分、それ以前に、私が見ていましたから」
御影はそう言うと、床に落ちていた、長い紐の切れたお守りを拾い上げる。
そのお守りに、御影が力を籠めると、ふわりと宙に映像が映し出された。
『お前は、ここで消さねばならないらしい』
『さぎりを、離してー!』
『今から、この女をナイフで傷つける』
『!?』
『お前が私の力を開放すれば、癒すこともできるだろう。どうする、狐!』
映像を見て青ざめ、さぎりと希海を抱き寄せる崇史に、二人はしっかりとしがみつく。
御影はその様を視界の端で見ながら、青い顔をしている龍美家の当主・隆雅に目をやった。
「か弱い女子二人に対して、この仕打ち。しかも、一人は萩恒家の令嬢と分かっていてのこと。これは許されざることです」
「せ、先帝陛下! しかし……!」
「そなたの息子、征雅のやったことは、これだけではない。あの白い香り袋。四年前の事件にも関与していることは明白」
知っていたのか知らなかったのか、青を通り越して白い顔をしている隆雅に、御影は容赦することなく追及する。
「私はこれを、先帝・御影の名を持って、帝に対して申立てをします。これに関し、龍美家は申し開きを考えておきなさい」
その言葉に、膝をついていた隆雅は、魂を抜かれたように床に崩れ落ちた。
それを見届けた御影は、すぐ様、己が率いて来た背後の使用人達に命じる。
「事態の調査に入りなさい。怪しい者は全て逃がさないように。それから、怪我人の治療を!」