狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
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征雅の噂話を聞いて、足を止めたさぎりは、気を取り直して家への道を進み出す。
着物の下、半襦袢の上には、御影に貰ったお守りが下げられている。
そしてその半襦袢の下、胸元には、変わらず崇史のお守りがあった。
買い物用の風呂敷を下げ、道をてくてくと歩いていくさぎりの視界に、果物屋が目に入る。
美味しそうな梨が沢山並んでいるその様に、さぎりは頬を綻ばせる。
「お兄さん。この梨、五つ頂けるかしら」
「はいよ! おや、綺麗なお姉さんじゃないか、一つおまけで付けてやらぁ!」
「えっ、あの。え?」
「おいおい、お姉さんのことだよ。これだけ器量良しで初心たぁ、たまらんねぇ。もう一個サービスだ!」
「あ、有り難うございます……」
七つの梨を受け取り、お代を渡すと、さぎりは顔を赤らめたまま、そそくさとその場を立ち去る。
器量良し。
さぎりは、そんなふうに自分が呼ばれる日が来るなんて、露ほども思っていなかった。
つい、火傷痕のあった首元に手をやり、そのつるりとした感触に頬を綻ばせる。