狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。


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 実は、先日さぎりは、崇史に正式に求婚されたのだ。

 叔父・佐寝蔵(さねくら)律次(りつじ)のやったことを聞いた崇史は、額に手を当てると、さぎりに詰め寄った。

「さぎりは、俺が他に妻を宛がわれても良いのか」
「えっ」
「この思いは、一時的なものだと?」
「えっ。あの」
「それとも、有無を言わせず奪い取った方が好いのか」

 壁際まで詰め寄ってくる崇史に、さぎりは顔を真っ赤にして震える。

 しかしさぎりは頑張った。
 今のさぎりは、今までのさぎりとは、違うのだ。
 もう心は決まっている。

 震えながらも、崇史の胸に手を当てるさぎりに、崇史は目を瞬いた。

「……崇史、様」
「……」
「好き、です」

 そっと崇史の胸に顔を(うず)めたところ、反応がない。
 それでも、さぎりは必死に、崇史に取りすがった。

「他の方と、結婚しては、嫌です」
「……」
「崇史様……?」

 さすがに不安になって顔を上げると、そこには首から上を真っ赤に染めた主人がいた。
 さぎりと目が合うと、慌てたように目を逸らして、口元を押さえている。

「誰にそのような技を習ったのだ!」
「え、ええ……?」
「さぎりは狡い女子(おなご)だ」

 そう言って動揺している崇史に、さぎりは初めて、自分から抱き着いた。
 その後、崇史はさぎりを逢引き(デート)に誘い、正式に求婚した。
 そうして、それを受けたさぎりは、崇史の正式な婚約者となったのである。


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