狐火の家のメイドさん 〜主人に溺愛されてる火傷だらけの侍女は、色々あって身一つで追い出されちゃいました。
その日から、いつもに増してぴったりとさぎりに張り付いている希海に、さぎりは堪えきれないように笑っていた。
しかし、それも、悪い人――律次おじさんによって邪魔されてしまった。
なんと、さぎりが、家を追い出されてしまったのである。
(まずいのよ。さぎりはきっと、のんを連れて行ってくれないの!)
さぎりが出ていくと、使用人達の噂話を盗み聞いた希海は、蒼白になり、慌てふためく。
そうして、緋色の瞳に涙を一杯浮かべたところて、脳裏でいつもの狐さんが「こーん」と鳴いた。
この狐さんは、希海が泣きそうな時に、たまに希海のところにやってくる。
そして、狐が鳴くと、希海は子狐に転変することができるのだ。
子狐に転変した希海は、自慢げに尻尾を振り、ふと、自分の足元に崇史のくれたお守りが落ちていることに気がついた。
子狐に成ると、希海の服はどこかに仕舞い込まれる。
しかし、このお守りは、どうやら仕舞い込まれずに、落ちてしまったらしい。
それは、このお守りに異能の力が込められているせいなのだけれども、希海にはその理屈が分からない。
お守りをすんすん嗅いだり、右足で突いたりしていると、玄関の方から、律次おじさんの連れてきた使用人が、「もうこの家に近づくんじゃないよ」と言う声が聞こえた。
(さぎり! さぎりが、いっちゃう!)
希海は、慌てて庭を駆け抜け、壁を乗り越え、さぎりの背中にぺたりと張り付く。
きゅんきゅん声を出してさぎりに縋ったところ、どうやらさぎりは、希海を連れて行くことにしてくれたようだ。
希海は、うきうきでさぎりの腕の中に収まった。