異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
「うわぁ、満天の星ですね。綺麗」

 宝石を散りばめたみたいな星空を翠々と一緒に見上げた。
 空想的で甘いこのシチュエーションのせいで、隣にいる彼女に触れたくて仕方ない。

「アメリカで見る星は格別です」

「日本でも一緒に見よう」

 いよいよ我慢が効かなくなった俺は、右手を伸ばして翠々の肩をそっと抱き寄せた。
 抵抗されたらもちろん放すつもりでいたが、彼女も俺のほうへ自然と身を預けてくれて内心ホッとした。

「半年後にビジネススクールを卒業するんだ。そのあとは日本に戻る」

「そうなんですか」

 俺のアメリカ生活ももう少しで終わる。もちろんMBA取得のために勉強はがんばらないといけないが。

「日本でも翠々に会いたい」

「私も会いたいです」

「こっちにいる間にたくさん写真を撮って送るよ。翠々が俺を忘れないように」

「琉輝さんみたいな素敵な人を忘れたりしませんよ」

 暗がりだというのに、ぷっくりとした彼女の唇が視界に入ってきて目が離せなくなる。
 気づけば吸い寄せられるように自身の唇をそっと重ねていた。
 ほんの少し触れるだけのキス。それが今の俺たちにはピッタリな気がした。

 留学期間を終えた翠々は日本に戻って大学生活を送り、俺は半年後、無事にビジネススクールでの修士課程を修了した。
 敷かれたレールの上を逸れることなく順調に歩んでいる俺の様子を知った両親はよろこんでいた。
 一回り大きくなって戻ってくるのを楽しみにしていると祖父母も言っていたのだが、予想に反して俺は日本に戻れなくなった。

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