異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
「なにが気に入らなかったの? 今さら聞いても仕方ないけど」

 憎らしいとばかりにフンッと鼻息を荒くし、叔母は運ばれてきたアイスコーヒーのストローに口を付けた。
 私はどこまで正直に話そうかと、叔母のラメ入りのジャケットを見つめながらしばし考える。

「来春に結婚式を挙げる予定で、すでに詳しい日取りが決まってたの。結婚するって私は言ってないのにおかしいでしょう?」

 私の気持ちなんてまるで無視で、どんどん話が進んでいくことに恐怖を覚えた。
 叔父や叔母の顔を立てるためだとはいえ、のこのことお見合いの場に赴いた私がバカだったと、このときようやく気づいたのだ。

「翠々は気に入られたのよ。全部あちらが準備してくださるんだからありがたいじゃない」

「ご両親とは同居で……それどころか寝室もお義母様と一緒にするって」

 さすがに寝室の件は叔母も知らなかったのか、一瞬驚いた顔をしていた。 
 なにも理由がないのに、姑に当たる人が新婚夫婦の寝室で一緒に寝るのはどう考えてもおかしい。
 光永さんは寝室にベッドを三つ並べる気なのだろうか。それともダブルベッドの隣に母親が眠るための布団を敷くのか……。
 それらを想像した瞬間おぞましくなり、私には絶対に無理だと心が真っ先に拒絶した。
 ショックを受けたのもあって、そこからの記憶はあいまいだ。
「結婚できません」「すみません」「ごめんなさい」と平謝りして逃げるように帰ってきたのだと思う。

「そんなのは結婚してから抵抗できたわよ。男はたいていマザコンなんだから、みんなたいして変わらないわ」

「叔母さん……」

「光永さんは結婚相手には申し分ない人だったのに」

 もうなにを言っても無駄だとあきらめ、意気消沈して小さく溜め息を吐いた。 
 叔母には私と同い年で未婚の娘がいる。光永さんを素敵な相手だと本当に思っているなら、私ではなく自分の娘を嫁がせればいいのだ。
 だけど立場の弱い私は、叔母にそんなふうに言い返せない。
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