異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
「留学費用の件は振込先をメールをしておくわ。そこに振り込んでおきなさい」

 カフェの女性店員が「大丈夫ですか」と声をかけにやってきたので、周囲の目が気になった叔母はすっくと立ちあがってそのまま立ち去っていった。
 結局、最悪の結末になった。
 それなら最初からなにがなんでもお見合いを断っておけばよかった。今さら後悔しても遅いのだけれど。

 私も立ち上がり、こぼれたコーヒーの後始末をしてくれている女性に謝罪をしていると、突然背後から私の肩にスーツの上着が掛けられた。
 振り向くと真後ろに長身の男性が立っていて、彼の顔を見た瞬間、驚きすぎて思わず目を丸くする。

「る……琉輝(るき)さん……」

「とりあえず出よう」

「え、でも」

 彼に右手を引かれ、混乱したままカフェをあとにしてしまった。
 先ほどから予想外のことが起こりすぎていて、私はオロオロするばかりだ。
 足早にしばらく歩いたので、「いったん止まってください」と伝えようとしたそのとき、彼がどこかの部屋の扉を開けて私を中に押し入れた。

「ここ、入っても大丈夫なんですか?」

 中はミーティングルームといった感じで、テーブルと何脚かの椅子が設置してある。

「うちの会社が使ってる部屋なんだ。とりあえず座って」

 一番近くにあった椅子を引き寄せて差し向けられたので、素直にちょこんと腰をおろした。
 自分だけ立っているのも変だと感じたのか、彼も同じように私の隣で椅子に腰掛ける。

「本当に琉輝さんだ。お久しぶりです。本物、ですよね?」

 私の言い方がおかしかったのか、彼はフッと表情を緩めながら小さくうなずいた。

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