異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
 彼の名は鳴宮(なるみや)琉輝。年齢は私より四歳年上だから二十七歳だ。
 琉輝さんとは、私が大学生のときに短期留学をした先のボストンで知り合った。
 くっきりとした高い鼻梁、目力のある瞳、シャープな輪郭、そのどれもが魅力的な輝きを放っていて自然と見惚れてしまいそうになる。

「もちろん本物。春以来だから会うのは半年ぶりだな、翠々」

 彼に名前を呼ばれるだけで、懐かしさと恋しさから涙があふれてくる。

 私が短期留学をしたのは、二年半前の大学二年の春休みだった。
 琉輝さんはボストンの大学を卒業後、MBAを取得するためにビジネススクールに通っていて、現地の日本人交流会で私と出会った。
 私の留学期間は二ヶ月だったけれど、琉輝さんはビジネススクールを卒業したあともアメリカで仕事に就いていたので、現在日本にはいないと思っていた。
 だから先ほど彼だとわかったとき、ひどく驚いたのだ。

「メッセージもうれしいけど、琉輝さんの顔が見られて本当にうれしいです」

 彼とは留学中に仲良くなったので、連絡先を交換してメッセージのやり取りを交わしていた。
 時折日本に帰ってくることもあったので、そのときには会って食事をしたり。
 こうして半年ぶりに対面をして存在を実感すると、彼への秘めた恋心が一気に加速し始める。
 
「あ! 私、カフェで支払いを済ませてなかった。戻らなきゃ」

 テーブルの上に伝票が残っていた記憶はある。
 どんなに好奇な目で見られようとも、最後に支払いをしなくてはいけなかったのに、私はそのまま出てきてしまったのだ。
 ハッと気づいて立ち上がったが、隣にいる彼に腕を引かれて再びストンと椅子の上に落ち着いた。

「あそこはうちの系列のカフェだから。あとで俺が払っとく」

 どういう意味なのかと考えていると、私の肩に掛けられた上着の左胸にキラリと光る社章が目に入った。
 金属バッヂのデザインは誰もがよく知っているマークだ。

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