異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
「お相手のお父様が叔父のクライアントらしくて。それで叔母があわてて謝りに行って……」

「だからってカフェでコーヒーを浴びせるのはやりすきだろ」

「叔母が冷たいものしか飲まない人でよかったです」

 これがアイスではなくホットコーヒーだったなら、私はヤケドしていたかもしれない。
 自虐的にフッと苦笑いを浮かべると、ひどく心配そうな表情をした琉輝さんと目が合った。

「叔母はいわゆる“瞬間湯沸かし器型”で、すぐに怒りの感情が沸騰して爆発するタイプなんですよ。こうなったのは全部私のせいです」

「違うだろ。翠々は無理やり見合いを強要されたんじゃないか」

「叔母には……逆らえなくて……」

 しっかりしろとばかりに琉輝さんの右手が私の左肩に触れた瞬間、張りつめていた気持ちが緩みそうになる。

「もう少しで翠々がそんな相手と結婚させられてたかと思うとゾッとする。だから逆にこうなってよかったんだ」

 彼の真剣な眼差しが私を射貫いて離さない。
 心から相手を思いやれる琉輝さんの包容力は出会ったころから同じで、弱っている私はそれを実感して再び涙目になった。

「それと、留学費用を返せって言葉も聞こえたけど?」

 叔母が大声で怒鳴っていたとはいえ、なにもかもすべて聞かれていたようで途端に情けなさが込み上げてきた。

「実は父が叔母に借金をしていたみたいなんです。私は知らなくて、父が亡くなったあとでそう聞きました」

 父は今年の春に病気で急逝した。
 母も私が小学生のころに病気で他界したので、それからうちは父子家庭だった。

 母の両親に結婚を反対され、ふたりは駆け落ち同然で一緒になったらしい。
 母が亡くなったとき、祖父母に子育ての協力を仰ぐこともできたのに、父は一切頼らなかった。
 ひとりで私を育て、大学にも行かせてくれた。
 そして私が留学したがっているのを知り、なんとしてでも叶えてやろうとしたのだと思う。
 でもどうしても費用が足りなくて、唯一頼ったのが自分の妹だった。
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