異国の地で出会った財閥御曹司は再会後に溺愛で包囲する
「金額はいくら?」

「留学費用とその支度のために、二百万円借りていました」

 正直に私に話せば、遠慮して留学を辞めるとわかっていたから父は黙って借金をしたのだろう。
 金銭にシビアな叔母は借用書にサインまでさせていて、それを見せられたのだけれど間違いなく父の筆跡だった。なので叔母の話はウソではない。

「俺が翠々の力になる。任せろ」

「いえ、琉輝さんを巻き込むだなんてそんな……」

「君のお父さんが亡くなったとき、俺はすぐに日本に戻れなかった。つらいときにそばにいられなかったことを今でも悔やんでるんだ」

 彼が苦々しい表情を浮かべて私を見つめる。
 本当にこの人はどこまでやさしいのだろう。

「大丈夫」

 彼にそう言われたら本当に全部解決できそうな気がするから不思議だ。
 いつだって琉輝さんはやさしさだけでなく元気も分け与えてくれる。私にとってはヒーローだ。

 一緒に食事をしようと誘われたが、琉輝さんはまだ仕事が残っているようだったし、私もコーヒーまみれでひどい格好だったので、また次の機会にということになった。
 肩に掛けてくれていた上着を返そうとしたら、着て帰ればいいと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。白いブラウスに広範囲に広がった茶色いシミが隠せるからありがたい。

「送ってやれなくてごめん」

「謝るのは私のほうです。迷惑をかけてしまって……」

 琉輝さんがうつむく私の頭をポンポンとやさしく撫でる。私はこの大きな手の平が大好きだ。

 ペコリとおじぎをして背を向ける。
 歩き出したあとにそっと振り向くと、そこにはまだ彼がいて、笑みをたたえながら軽く手を振ってくれた。
 会うのは半年ぶりだったけれど、私はちっとも琉輝さんを忘れていなかった。
 それどころか、出会ってからずっと恋をしたままなのだと思い知った。
< 8 / 29 >

この作品をシェア

pagetop