花言葉〜青い春〜
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「委員長ー、ちょっと助けてくれ。」
朝のホームルームが終わって、菫は担任の伊勢谷千鶴(イセヤチヅル)に手招きされた。
伊勢谷千鶴は菫からしたら超いい加減な担任だった。
26歳、教師4年目。英語担当。担任をするのは初めて。どんなスーツでも映える細いけど筋肉質の体。襟元は緩めてネクタイ。
顔は整っているし、笑った時に(あまり笑わないけど)目が少し垂れるあたりとかが、女子生徒からは「かっこいいけど可愛い。」と言われ人気があった。
でもどことなく闇を感じるよね。
菫は口にしたことはないけど密かに思っていた。
「助けてって、また何かしでかしたんですか?」
教壇の前で軽く毒を吐くと、伊勢谷はバツが悪そうに頭をかいた。
「昨日さ、理科主任にみんなのノートを集めるように頼まれていたんだけど、すっかり忘れていて。」
「えー!?」
「今朝、主任に怒られちゃった。」
まったくこの人は……怒られちゃったじゃないってのに。
「委員長、頼む!あとで集めて理科主任に届けて欲しい!生徒が行った方が、あの人怒らないから。」
「先生、しっかりしてくださいよ。」
と言いながら、菫はクスクス笑ってしまった。伊勢谷のそういうところは憎めなかった。
今まで男の先生と言うだけで苦手意識があったが、伊勢谷には思ったままを話せた。
委員長というのも、伊勢谷が呼び出したからクラスに広まった。
他の子は普通に苗字で呼ぶのに。
自分だけ特別扱いしてもらえた気もして、それも菫が伊勢谷を慕う要因のひとつになっていた。