花言葉〜青い春〜
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なんで私を待っているの?
明日から大丈夫なんて桜が思えていたのはほんのわずかで、店を出たらまだスーツと髪を濡らした伊勢谷が桜を待ち伏せしていた。
「あの……」
制服姿の自分をわざわざ待っているということは……
「君、委員長の片割れだよね?」
その言葉に、やはり気付かれていたのかと思い、桜は小さく頷いた。
「申し訳ないんだけど、今日見たことは黙っていてもらえないかな?その、SNSにあげたりとかされると困るっていうか……。」
伊勢谷は濡れた髪をかき上げて、眉を下げた。
「私、そんなことしません。誰にも言うつもりもありません。」
噂話は好きではない。それに、先生には先生の生活があるのに、それを土足で踏み込んだりはしたくない。
「……そっか。神谷双子は、本当にどちらもいい子だね。」
安堵した顔の伊勢谷を見て、桜はなぜだか分からないが、鞄をあけて自分のハンドタオルを伊勢谷に差し出していた。
「髪とスーツ、拭いてください。そのままじゃ風邪引きますよ?」
「あ、ごめん。生徒に気を遣わせて。」
「気にしないでください。では、私帰ります。」
桜は彼に背を向けた。いつまでもここにいたら、伊勢谷先生も立ち去りにくいだろうと思った。
それに帰って夕飯の仕度をしなくてはならない。休みのうちに母親が作った肉じゃがを温めなおして、味噌汁を作って……。明日の予習は菫ちゃんに教えてもらおう。