花言葉〜青い春〜
「で、何?何か質問?」


「あ、あの……今日、ありがとうございました。安藤くんに声をかけてくれて。私じゃできなかったから。」


「いいって。担任として当たり前のことしただけだよ。てか、生徒が教師に気遣うなって言ってるじゃん。」


伊勢谷はふっと笑みをもらして、机をガサゴソと漁って、今日はキノコの頭のしたチョコレートを取り出した。


「あげる。今日はチョコレート菓子だね。」

「……どうしたのこれ?」

「今日はたまたま家にあったの。俺、お菓子あんまり食べないからねー。」

「食べないのに家にあるの?」

「うーん……まぁそれは大人の事情だ。」


菫には真の意味は理解できなかったが、伊勢谷の顔から話すことができない事情があることだけは察することができた。


「それで委員長、部活は?」

「あ、あの……もうひとつ用事があるの。」


どうして自分がこんな風に先生といたいと思っているのか……


安心感?信頼している大人だから?


菫は学生鞄からリーディングの教科書を取り出し、今日伊勢谷から習ったページを開いた。


「ここ!ここの英訳がどうしても分からなくて。だから、教えてください!」


嘘だった。今日の伊勢谷の説明でちゃんと理解していた。でも理解していないフリをしたかった。


「あー……ここね。一番ややこしいところだもんね。」


伊勢谷の骨張った手が赤いペンを手にする。さっき吸っていた煙草の匂いが一瞬、菫の鼻をくすぐる。


……先生との距離近い……


手を伸ばしたら、届きそうな距離。


手を伸ばしたら……


「委員長、なんか紙ないの?ルーズリーフとか。」

「あ、あります!あります!」
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