花言葉〜青い春〜


もう置いて帰ってやると、何度も心に思ったが、菫の脳裏に伊勢谷との約束が残っていたので、我慢して成海に付き合うことにした。


「俺の行きたい店でいい?」


と成海に提案されて、菫は


「どこでもいい。」


とぶっきらぼうに答えた。


成海の提案した店は、学校の最寄り駅から3駅ほど行ったところだったが、少しでも学校の人と離れられるなら、そっちのほうが良いと思っていた菫には好都合だった。


成海が連れてきてくれたお店は、チェーン店とかではなくて、住宅街の中に佇む洋食屋だった。


自宅を改良しているようで、一階部分が店舗になっている。店の外にいても、甘いデミグラスソースの香りがしていた。


「ここ、俺のバイト先。」


着替えたせいで、パーカーと制服のズボンというちぐはぐな格好をした成海が木目調のドアを開けると、


「おー、成海くん!」


と中から親しみのこもった声が聞こえてきた。


「こんにちは。席、空いてます?」

「空いてるよ。どうぞ。」


成海に促されて、菫は店内に入った。


間接照明に照らされた店内は、ドアと同じ木目調のテーブル席が6つ、カウンター席が6つとなっていた。ゴタゴタとした飾り付けもなく、木の温もりを前面に押し出したシンプルな店だった。
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