完全包囲 御曹司の秘めた恋心
「環奈さん、これから日付が変わるまで、貴女の時間を僕がもらってもよろしいですか?」

「え、えぇ、それは構いませんが、私の方こそ、大切なお時間をいただいてしまってよろしいのですか?」

「もちろんです」

「申し訳ありません。私は貴方のことを何も存じ上げません。教えていただけると有り難いのですが……」

「何も知らない、か……」

「えっ? どこかでお会いしましたか?」

「完全に忘れられているようだ」

伏し目がちに呟いた。

私は超高速で記憶を遡る。フライトで同乗したことがあるの? いやいや、こんなに人目を引くお客様なら印象に残っているはずだ。
ならば同業者? いや、それも違うな。だったら女性陣が放ってはおかないはずだ。必然的に知る事になるだろう。
ゲイル・ベアーさんなんていう知り合いはもちろんいないし……
もしかしたら桃香の知り合いなのかもしれないと、そちらの記憶を辿ったが、やはりそれらしい人物を思い出すことはできなかった。

「思い出せませんか?」

「申し訳ありません」

「謝らないでください。だったら、僕のことはこれから知ってください」

「それで良いのですか?」

「ええ、もちろん。さぁ、着きました。降りましょう」

手を取られ、降りた先は、陸上競技場だった。

「陸上……」

「そう、今日は陸上世界大会男子400mリレー決勝です」

「ひっ!」驚きのあまり妙な声を上げてしまい、慌てて口を覆った。
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