完全包囲 御曹司の秘めた恋心
連れてこられた先は、ローストビーフが有名なお店だ。半年先まで予約できないほどの人気店。
それなのに、今、私の目の前では、シェフによるローストビーフのカットサービスが行われている。

「凄い…… 美味しそう…… 」

それにしても、私の陸上に対する情熱や、大好物までリサーチ済みとは、いったい何者なのだろう……

「さぁ、環奈さん、食べましょう」

「はい、いただきます」

ナイフとフォークで切り分け、そっと口に運ぶ。

「美味しい!」

口の中に広がる肉汁といい、お肉の柔らかさといい、上品な味といい、絶妙なバランスが見事としか言いようがない。

「こんなに美味しいローストビーフをいただけるなんて、感謝しかありません」

「それはよかった」

柔和な笑みを向ける彼の所作に、私は見惚れてしまった。美しく食事をする姿は貴公子のようだ。

「どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもありません」

「ここはデザートがジェラートなんです。それも絶品なんで、期待しててください」

「はい!」

ジェラート!またまた私の好きな氷菓子だ!

これは現実なのだろうかと不安になる。
もしかしたら、私の人生は今日で終わってしまうのかもしれない。神様がくれた最後の幸せなのだろうか……

「環奈さん?」

「え⁉︎ 」

「少し顔色が悪いようですが……」

「いいえ、大丈夫です。ただ、幸せすぎて少し不安になってしまいました」

「不安?」

「私の人生は今日で終わってしまうのではないかと思って……あっ、申し訳ありません、私ったら変なことを……」

彼が手にしていたシルバーを丁寧にに置き、大きな手が私の頬を包み込んだ。
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