完全包囲 御曹司の秘めた恋心
周りにいる令嬢たちは確実に環奈よりも年上だ。そんな年上の令嬢も言い返せないくらい毅然と正論をぶつける。しかも淀みなく。俺と同じ中学一年がだ。

花村環奈、君は最高だ。 

思わず笑みが漏れた。同時に環奈と視線がぶつかる。 
環奈の表情は不安そのものだった。俺からすぐに視線を逸らすと、突然駆け出し会場を飛び出した。間髪入れずあとを追ったが、俊足には追いつけなかった。

しばらく辺りを探し回ったがどこにもいない。

どこに行ったんだよ……

絶え間なく不安だけが押し寄せた。

どうすることも出来ず会場に戻った俺は、パーティーが終わるまで留まるよう親父から言われた。
普段温和な親父の声には怒りが滲んでいる。
桃香の姿は見えない。環奈を探しに行ったままなのだろう。

戻った時には何事もなかったかのようにパーティーは進行していたが、パーティーに水を差し、環奈に対してしでかした令嬢たちの行為を、祖父も親父も許してはいなかったのだ。

令嬢とその親がどうなるのか、想像するだけでも恐ろしい。

祖父にスッと近づいた秘書が耳打ちする。
頷いた祖父の眉間には深い皺が刻まれ、秘書に何か伝えた。

環奈が見つかったのだろうか?

俺が戻った後、熊野御堂家の使用人が手分けして捜索にあたっていた。
本音を言えば、俺も環奈を探したかった。 
俺が真っ先に探しだし、大丈夫だ、俺が守ってやる。そう言ってやりたかった。

だが、もう俺は、声をかけてやるどころか、会うことも、声を聞くことも出来なくなってしまった。
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