完全包囲　御曹司の秘めた恋心
本番前日、私は初めての飛行機にたった一人で乗り込んだ。
離陸した後、気圧のせいで耳が痛くなり、水を飲んでも治らず苦戦していると、それを察した客室乗務員が飴を持って来てくれた。
桃香のように奇麗で笑顔が素敵な女性だ。立ち振る舞いも上品で、フライト中、ずっと彼女を観察していた。
飛行機を降りるまで、一人旅の私を常に気にかけてくれていた事に、とても感動してしまった。

客室乗務員に世話になったお礼を告げ、飛行機を降り到着ロビーへ出ると、桃香が迎えに来てくれていた。しかも、黒塗りの車に乗って。桃香曰く、熊野御堂家が手配してくれたとのことだった。
初めて乗る高級車に胸が踊る。

桃香のアパートまで送り届けてもらい、高級車でのドライブはあっという間に終わってしまった。
楽しみのあとには地獄が待っている。アパートに到着するや否や、桃香から容赦ない最終特訓を受けた。

付け焼き刃とはいえ、かなり進歩したのではないのだろうか。自画自賛だ。

「環奈、頑張ったね」

桃香が私の頭を撫でながら、優しく微笑む。

「私、大丈夫？ ちゃんと出来てた？」

「うん、大丈夫。当日は私の傍から離れずに笑顔で挨拶しておけば、あとは私がフォローするから」

「うん」

「心配しなくていいからね。巻き込んでごめんね」

私はブンブン首を振った。

「私、頑張る」

桃香はもう一度、私の髪を優しく撫でてくれた。

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