完全包囲 御曹司の秘めた恋心
そんな熊野御堂家とのやりとりの中、私は、背後に受けるあらゆる視線を感じ取っていた。これを "好奇の目に晒される" というのだろう。

桃香は煌びやかなこの世界に引けを取らないほど優雅で美しい。それに比べ、私はどこからどう見ても田舎っぺ。場違いもいいところだ。

熊野御堂家と深い関わりがある桃香だけならまだわかる。桜子たっての希望であり、一歩も引かないお誘いともなれば、参加せざるを得なかったが、やはり納得いかない部分はどうしても拭い切れない。

それよりも、私のせいで桃香にまで冷ややかな視線が向けられるのではないかと、ネガティブな感情ばかりが押し寄せた。
それでも、お祝いの席だ。笑顔だけは絶やさぬよう精一杯振る舞った。


司会者が、主役の登場を告げる。
二人は後方入り口から、淡い照明に包まれ、腕を組んで現れた。
シャンパン色のロングドレスを身に纏った桜子と、淡いメタリックシルバーのタキシード姿で現れた婚約者は、王子様とお姫様のようだ。感嘆の息が漏れる。

人は生まれながらにある程度は人生が決まってしまう。私は中学一年にして身をもって知ってしまった。分相応という言葉があることも納得だ。

もう二度と、こんな経験はできないだろう。ならばせっかくだ。思いっきり堪能してやろう。そう思うと、うじうじ考えていたことが馬鹿らしくなった。
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