完全包囲 御曹司の秘めた恋心
しかし、神様はどこまでも意地悪をする。

「お姉ちゃん、私お手洗い行ってくる」

「場所わかる?」

「うん」

私は、来客の間を縫うように後方の出入口に向かう。

すると足が何かに引っかかった。突然のことで、上手くバランスを取ることができず、前のめりに転んでしまった。

周りからクスクスと笑い声が聞こえる。

「喉が渇いてるんでしょ、目障りなオランウータン。さっさと動物園に帰ったら?」

小声だが、私にははっきりと聞こえた。

顔を上げると、どこかの令嬢らしき数人が、私を囲みニヤついている。
そしてその中の一人が、わざと私にぶつかり、手に持っていたグラスの中身を私の頭にぶっかけた。
オレンジジュースだ。

「あ〜らごめんなさい。そんなところにいるなんて思わなかったから」

嘘つき。今のは絶対わざとだった。

「なぁに、こわ〜い。そんなに睨まなくてもいいじゃない。ジュースこぼされたくらいで何よ。あ〜もう、グラス空になっちゃった。まぁ、でも私、オレンジジュース嫌いだったから、他のをいただこうかしら。オレンジジュースなんてありふれてるし、こぼしたって問題ないでしょ。あっ、これ使って」

スタッフが持ってきたおしぼりを奪い取ると、ジュースで濡れた髪に載せ、何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとした。

許せない!
何が許せないのか。それは、彼女が飲み物を粗末にしたことだ。

「ちょっと待ってください!」

「なぁに?」

「謝ってください」

「だから謝ったじゃない」

「オレンジジュースにです」

「はぁ?」

私は立ち上がり、頭にオレンジジュースを被ったまま彼女に歩み寄った。
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