最後の花火
隣にいる夏希を見る。夏希は目を輝かせながら空を見ていた。こちらを見る気配は一切ない。その態度が、彼の私に対する気持ちを伝えているような気がして、胸が痛くなった。

(ねぇ、夏希。私たちはきっと、幼なじみじゃない方がよかったんだよ)

もしも小さい頃からずっと一緒にいるのが当たり前じゃなかったら、夏希は少しでも私を見てくれたかもしれない。私と今、目が合っていたかもしれない。

近くにいるカップルを見れば、微笑み合いながら「綺麗だね」なんて話している。花火の打ち上がる音は大きいのに、どこか甘ったるい声は私の耳に嫌気をさすほど響いた。

「夏帆」

名前を呼ばれる。少し期待をしながら顔を上げる。そこにあったのは、いつも通りの笑顔の夏希だった。その唇が動く。

「俺、オーストラリアに行くけど、俺たちはずっと幼なじみだから。その関係は変わらないから、俺のこと忘れんなよ。俺とお前が幼なじみっていうのは、誰にも壊せない関係だからな!」

そう、夏希にとって私は幼なじみ。想いを伝えようかと迷ったけど、その気持ちはその言葉で萎んでしまう。答えはもうわかっているから。この想いが実ることはないから。
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