カバーアップ
ちょうどいい厚さの唇は、キスしたら気持ちよさそうだ。
年もまだ三十二歳とそこそこ若く、こうやって細やかな気遣いのできる彼はモテそうだが、実際は女性社員には恋愛対象から外されていた。

――その理由は。

「じゃあ、お疲れ」

「お疲れ様です」

届いたビールで軽く乾杯。
喉が渇いていたのか、課長は半分まで一気に飲んだ。

「でもよかったね、上手くいって」

課長が私を見て、にっこりと微笑む。

「菅野課長が気づいてくれたおかげです」

彼に向かって勢いよく頭を下げた。
もし課長が私のミスに気づいてくれなければ今頃、会社を追われていたかもしれない。
課長にはもう、感謝してもしきれない。

「僕はなにもしてないよ。
ミスがわかってから桜井(さくらい)が頑張った結果だし」

笑いながら彼は、前菜代わりに取ったサラダを食べている。
嘘だ、課長の手助けがあったからこそ、適切に処理して挽回できた。
でも、課長はいつもそうなのだ。
僕はなにもしてない、君が頑張った結果だよって部下に功績を譲ってくれる。
そういう課長だから、みんなから慕われていた。

その後も適当な話をしながら、飲んで食べる。

< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop