カバーアップ
こんなのに見せられて、恋に落ちるなってほうが難しい。

赤くなっているであろう顔には気づかれたくなくて、俯き無言でチョコレートパフェをつつく。

……もっと課長の、こんな顔が見たい。

できれば私が、独占したい。
しかしそれは、叶わぬ夢なのだ。
だって彼には忘れられない奥様がいて、いまだに左手薬指で彼を縛っている。

「ひさしぶりにパフェとか食べたよ、満足だ」

やはり課長は嬉しそうににこにこ笑っている。
その笑顔はとても眩しかったけれど、同時に私の胸をギリギリと締め付けた。

「……課長は」

きっと私は今、言ってはいけないことを言おうとしている。
わかっているのに、口は止まらない。

「いつまで亡くなった奥様に、縛られているんですか?もう一周忌も終わったんですし、忘れてもいいんじゃないですか」

みるみる課長の顔が泣きだしそうに歪んでいく。
それを見て自分の失言を悟ったが、いまさらなかったことにはできない。

「……満智の存在は、さ」

顔を上げた彼は、真っ直ぐに私を見た。

「僕の魂に刻み込まれているから、忘れるとしたら僕が死ぬしかないんだよ」

< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop