孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


「えへへ、びちょびちょになっちゃったね」

 リイラが私に笑顔を向ける。

 サンドラとその仲間たちは、いじめっこの定番・水ぶっかけイベント起こして、私とリイラは濡れネズミになっていた。
 性悪母は外面だけは良い。だから制服や備品は全て新品で揃えてもらえたというのに。入学してまだひと月もたっていないのに、私の制服も備品もずたずたのボロボロになっていた。それはリイラも同じである。外面を気にするならまず娘をなんとかするべきだ。


「タオルあるから使う?」

 サンドラの行動パターンは読めるので、今日は水をぶっかけられるだろうなと思っていた。
 あの女はワンパターンなのだ。彼女の行動は大体読める。

「アイノは強いね」

 涙ぐみながら笑いかけてくれる。なるほど、イケメンたちが魅了される笑顔だ。
 リイラはピンク髪のサラサラストレートヘア。乙女ゲームのヒロインになるために生まれてきた女だ。庇護欲そそられる丸くうるんだ瞳に口角のあがった唇、細くて白い身体。女の子はかわいいで出来てるんだよ、を体現している。


「慣れてるだけよ」

「アイノはずっと耐えてきたのね。あの方がお姉様なんですものね」

「実は生まれ月は私の方が早いのよ」

「あら、そうなの?」

「でもサンドラを長女ということにしているの。長女の方がいい縁談が入りやすいみたいだから」

 落ち込んでいるリイラを笑わせるジョークのつもりだったが、ブラックジョークだったらしい。リイラの顔が曇る。

「とにかく慣れてるから私はいいの」

「こんなこと慣れたらいけないわ。こんな風にされていい人なんていないもの。あなたは素敵な人、慣れたらだめよ」

 リイラは力強く私の手を握った。すごい。ヒロインのセリフだ。
 こういう欲しい言葉をくれるから、イケメンたちは心を許していくのだろう。もちろん私もリイラの事が好きだ。

「アイノがいてくれてよかった」

 追加の決めセリフもくれたので、リイラのことは絶対死なせたりしない!と決意を新たにした。


< 10 / 231 >

この作品をシェア

pagetop