孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

幕間-1


 
「朝日が昇らない」

 アルトの部屋に入ってきたショコラは静かに言った。じっと窓の外を見つめていたアルトは頷いた。

「ついに来たか」
「ええ」
「魔物の様子は?」
「まだ変化はないわ。貴方の身体の調子は?」
「あまり実感はない。暗黒期とは静かに始まるものだな」

 落ち着いた口調でアルトは紅茶を口に含んだ。今まで紅茶を飲む習慣はなかったが、アイノが来て三食+おやつ付きの毎日を送ってからは常飲するようになった。

「いつまで続く」
「どうかしら、毎回異なるから。変化が起きるとしたら今夜ね。魔物たちを見張るために私は今夜から森で過ごすことにするわ。
それから以前も報告した件だけど、王国の動きが気になるの。使いや文がここ最近増えている」

 ショコラが束になった文をアルトに渡した。受け取ったアルトは目を通して薄く笑みを浮かべた。

「白の花嫁の祝福をしたい、ね」
「生き残りがいることに気づいたから機嫌を取りたいのか。それとも何らかの策略はわからない。とにかく一区の警戒は強めておく」

「頼んだ」
「あなたにはアイノがいるから大丈夫よ」

 ショコラはアルトの机に置いてあるリボンがかけられた小さな包みに視線を向けた。

「暗黒期が来る前に『白の花嫁』としてじゃなくて、自分の花嫁になってほしいと告げたらよかったのに。あの子、自分を使用人だと思ってるわよ」
「それでいい」
「指輪を準備してたのに? 本当に意気地なしだわ。せっかく私がクリスマスの日に舞台を作ってあげたのに」
「……縛り付けたくない」

 アルトは窓の外を見たままそっけなく答えた。

「暗黒期の俺を見れば、ここから離れたくなるかもしれない」
「ふうん。そっちの心配ね」
「今日から俺は彼女を花嫁と認識するのか?」
「そうね」
「まやかしの心で縛りたくない」

 呆れた表情をしていたショコラは今度こそ盛大なため息をついた。

「今まで暗黒期じゃなかったでしょうに。まあいいわ、暗黒期を終えたら素直になることね。じゃあ私は一度森を見回りしてくるわ」
「俺も行く」
「あなたはここで待っていなさい。アイノが言ってたでしょ、自分より先に他の人間を見て欲しくないって。万一、二区まで人間が来ていたらどうするの?」

 アルトは何か言いたげにショコラを見たが、それ以上言い返すことはなくもう一度紅茶に口をつける。

「何か動いてないと落ち着かないのはわかるけど。アイノが目覚める頃には帰るわ」

 ショコラは前足でそっと窓を開くと、暗い庭に軽々と飛び降りて去っていった。
 一人残されたアルトは小包を手に、小さなため息を落とした。
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