孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「……魔人は深い森に住んでいて魔物もいます。どのようにして」
「いい質問だ。彼らは普段は森から出てこない。しかし、暗黒期の花嫁行列の時だけは別だ。花嫁を迎えるために一族総出で森の入り口まで現れる」
「ということは……」
「そうだ。二十年前、花嫁行列の瞬間を狙って一族をせん滅させた」
父は固い声で言った。
花嫁行列。長い歴史の中、魔人と人間が共存するためにお互いを信頼して行ってきた儀式。その約束を違えたというのだろうか。
「しかし暗黒期が再度訪れた。どうやら生き残りがいたようだな。プリンシラ家の娘の狂言の可能性も残っていたが、今日事実だと確信した。
そして、今回が魔人を滅ぼす最後のチャンスではないかと思っている」
「今回が、ですか」
「生き残りはいても一人、二人程度だ。想定されていた人数の亡骸は確認した。報復もなく森の中に逃げているのであれば、多数いるとは考えにくい。
……彼らは長く生きる。今回花嫁を迎えれば子孫が増えていく。今回が完全に魔人を滅ぼす最後のチャンスだ」
父は力を込めて宣言すると、大臣たちから賛同の声が上がる。
いつも意欲的ではない彼らが珍しく何かに急かされているように声を上げる。それほどまでに魔人とは恐れるものなのか。
「今回は戦になるかもしれん。その時はお前にも役割を持たす、そのためにこの場に参加させたのだ」
父は僕に熱い瞳を向けた。僕はその瞳をまっすぐ返せているだろうか。