孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「ああそうだ。いつ暗黒期が訪れていつ花嫁を差し出すことになってもいいように毎年生贄を補充している」

「……では、彼女たちは特別に魔力が現れた存在ではなかったのですか?」

 魔法学園アロバシルアには必ず平民がいる。入れ替わるように数年に一人、魔力が開花する平民がいるのではなかったのか?

「しかしいいのですか。あなたの娘ですよ。多少痛めつけることになると思いますし、場合によっては……」

 一人の大臣がプリンシラ侯爵を気遣うように言った。彼にも娘がいたはずだ、重ねてしまったのだろう。

「私はもう娘だと思っておりませんよ」

 プリンシラ侯爵は何の感情も浮かべずに言った。

「そもそもアイノは数ヶ月、魔の森で暮らしているのです。暗黒期を迎える前に孕んでいる可能性もありますから」

「……確かに、その可能性もあるな」

「魔人の花嫁は既に人間ではありません。腹に子がいる可能性も考えるとアイノも処刑するしかありません」

 今、なんと言った……? 彼は彼女の肉親だろう?
 混乱している僕の前ではもう別の話が始まっている。

「魔の森の近くの軍基地はほぼ完成しております」

 防衛大臣がそう言うと、魔法省の役人が続く。

「適性検査を進めており、魔力が高いものを百名程選定しました」
「一ヶ月あれば可能か? 暗黒期は三ヶ月ほどは続くと思うが、あまり悠長にしていられない」

「はい。これから彼らには急いで攻撃魔法や防御魔法を取得させます」

「学園で学んでいない平民に可能なのか?」
 一人の大臣が聞くと、役人はしっかり頷いた。……平民、だと? でもそうだ。完成間近の軍基地の戦士は平民中心に構成されている。
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