孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「そのために数多く選定しているのですよ。魔力がかなり高いものもいますし」
「しかし平民に魔力を教えるなんて。今後に影響が出ないか?」
「問題ありません。魔法の覚えが悪く使い物にならないものは処分しますし、魔人との戦に乗じて最終的に基地も潰しますから。彼らには戦死してもらいます」
「恐ろしいことを考えるなあ!」
魔法省の役人の冷たい言葉に、数名の大臣が下衆た笑いをぶつける。
……どういうことだろうか。この国は貴族しか魔力は現れないのではないのか。数年に一度リイラのような特別な平民が現れるだけではなかったか。今の話ではまるで……。
「ひとまず方向性が決まったな。詳細は再度詰めていこう」
会議は一旦終了を迎え、皆いつものように穏やかに帰り支度を始めている。動揺しているのは僕だけだ。
穏やかに見えていた……事なかれ主義で現状維持を望むだけに見えていた彼らの知られざる一面を見た気がする。
父が僕の肩をポンと叩き、部屋から出ていくのを呆然と見送る。
リイラが、リイラの親友が、犠牲になる……?
彼らの話しぶりからすると、二人の命の保証など全くない。いやアイノ嬢の処刑はまぬがれない。
未来の国王として、甘いのかもしれない。でも僕は二人のことを知っている。僕がリイラを大切に思うように、魔の森に向かわされる平民たちにも大切に思う人がいる。
今までの僕ならこんなことを考えなかった。でもリイラと過ごして、僕はたくさんのことに気付かされた。
リイラを犠牲になんてしない。リイラを「白の花嫁」にしない。
僕は甘い。この国の仕組みを何も知らなかった。
僕は無知だ。だから、まずは知らなくてはいけない。この国のことを。そして、魔族や平民のことも。期限はきっと一ヶ月ほどしかない。まず、知らなくては。